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X線結晶構造解析の利点
タンパク質構造解析に利用される3つの手法
タンパク質の立体構造解析法は、主にX線結晶構造解析、クライオ電子顕微鏡解析、核磁気共鳴法(NMR)の3種類があります。それぞれに一長一短があるため、各手法の特徴を理解したうえで、利用する必要があります。
ハイスループット測定に最適なX線結晶構造解析
X線結晶構造解析の特徴
X線結晶構造解析は、創薬で最も使われている手法です。この手法では、タンパク質を結晶化した後に、X線を照射し、その回折像から構造解析を行います。結晶化が可能なタンパク質のみに適用可能な手法ですが、分子量の制限が無いことや、高いスループット性など他の手法より優れた点があります。
創薬用途でのX線結晶構造解析の最も大きな利点は、やはり高いスループット性です。X線回折測定に必要な時間は5分程度であり、データ処理も数分で完了する場合もあります。結晶化条件が決まれば、そこに化合物を添加することより、多数のタンパク質-化合物複合体の測定実験が容易に実施可能です。そのため、多数の化合物とタンパク質複合体の測定が必要な創薬にとって大きな利点です。
さらに近年、放射光ビームライン、X線検出器、解析ソフトウェア等の高度化や自動化が進んでおります。これにより、X線結晶測定や解析にかかる時間がより短縮されており、ますます便利になっています。
当社では、毎週1シフト(8時間)程度のビームタイムを確保し、農薬開発においてルーチン的に利用しています。
結晶化できないサンプルに
クライオ電子顕微鏡の特徴
クライオ電顕解析は、近年の装置や解析技術の発展に伴い、爆発的に普及した手法です。この手法は、比較的大きな分子量(100 kDa以上程度)の対称性のあるタンパク質の構造解析に向いています。また、結晶化が不要であるため、膜タンパク質をはじめとする結晶化が困難なタンパク質でも構造解析が可能です。一方、測定に半日以上かかることも多いため、多数の化合物とタンパク質の複合体構造解析を行う用途にはあまり向きません。
そのため、in silicoスクリーニング目的で結晶化が困難なタンパク質の構造解析を行う場合や、非SBDD手法で最適化された化合物の結合様式の確認などに適しています。
当社では、これまでに可溶性の農薬ターゲットタンパク質の解析実績があり、クライオ電顕解析例の中では高分解能の1.7Å程度の構造を取得し、創農薬に生かしています。
※クライオ電顕のAgroBoxも将来的な販売を予定しています。
信頼性の高い相互作用解析に
溶液NMRの特徴
NMR法は、高感度な相互作用解析や構造変化の解析を得意としています。2000年代頃までは、NMRを用いたタンパク質の構造解析も盛んに行われてきました。しかし、おおよそ30 kDa以下の分子量のタンパク質にしか適用できないこと、薬剤が結合した複合体構造を直接得ることが困難であること、測定に時間を要することから、次第に結晶構造解析やクライオ電顕解析が主流となってきました。
一方で創薬においては、感度と再現性の高さから、タンパク質-リガンド相互作用解析に活用されています。特に19F-NMRと呼ばれるフッ素含有化合物に対するライブラリースクリーニングや相互作用解析は、他のアッセイや物理化学的手法より高感度で信頼性の高い手法として用いられています。
当社においても、等温滴定カロリメトリー(ITC)や表面プラズモン共鳴(SPR)に適さないサンプルの相互作用解析などに利用しています。
※溶液NMRのAgroBoxも将来的な販売を予定しています。