
03
アグロデザイン・スタジオの
タンパク質構造活用例
農薬①:HAO阻害型の硝化抑制剤の創薬
農薬②:ALS阻害型の除草剤の創薬
① 硝化抑制剤標的ヒドロキシルアミン酸化還元酵素(HAO)
構造ベース創農薬で地球環境を守る
現代の農業において、窒素肥料は不可欠な農業資材ですが、ハーバーボッシュ法によって大量の化石燃料を消費して合成されており、低窒素農業が持続的社会のために期待されています。
硝化抑制剤は、窒素肥料を栄養源とする土壌菌である硝化菌を殺菌するための薬剤です。この菌によって窒素肥料投与量の半分程度が消費されてしまい、作物に肥料がいきわたりません。
そこで当社では、硝化菌だけがもつ酵素であるHAOを標的とすることで、効果が強く、安全性の高い薬剤を目指して研究開発を行っています。


ファーマコフォアサーチの活用
タンパク質のX線結晶構造を利用したin silico スクリーニング
HAOは、これまでに農薬標的として利用されたことのない酵素です。HAOはヘムが24個結合するヘムタンパク質であり(うち3個はTyrと共有結合する特殊なヘム)、力場パラメーターの設定が困難であるため、ドッキング・シミュレーションで薬剤探索を行うことが困難でした。一方で、研究をはじめた当時は、リガンドが結合していない状態(アポ酵素)の構造のみが論文発表されており、リガンドが結合した状態(ホロ酵素)の構造はありませんでした。そのため、基質-HAO複合体構造から阻害剤を設計することも難しい状況でした。
そこで、まずX線結晶構造解析法により、基質であるヒドロキシルアミンおよび基質ミミック型の阻害剤2種とHAOとの複合体の立体構造を決定しました。その構造情報をもとに力場パラメーターの設定が不要なin silicoスクリーニング法の一種であるファーマコフォアサーチを行いました。このとき結晶構造が得られていた2種の化合物のファーマコフォアと化合物が結合するタンパク質のポケット形状を利用することで、約600万種の市販化合物から77化合物を選抜・購入しました。それら化合物のHAO酵素に対する阻害活性を調べたところ、22種の化合物から活性が検出されました。最も活性の高いヒット化合物とHAOの複合体結晶構造を解析したところ、狙っていた位置に化合物が結合していることが明らかになりました。
その後、複合体結晶構造をもとに、化合物の改良を行い、IC50が10 nM程度の活性の強い化合物の創出に成功しました。このようにタンパク質のリガンドポケットの構造情報に基づくファーマコフォアサーチを利用することで、高確率のスクリーニングを実施することができました。
ファーマコフォアサーチの有用性
HAOのような特殊な補欠分子を持つタンパク質に対して、ファーマコフォアサーチは有効なアプローチになります。
また、ドッキング・シミュレーションと比較して、計算時間が半日から1日と短いことも特徴として挙げられ、構造が類似した化合物の網羅的探索や化合物の母核構造を置換するスキャフォールド・ホッピングが短時間に実施可能です。

② 除草剤標的タンパク質 アセト乳酸合成酵素(ALS)
タンパク質構造解析で抵抗性変異を回避する
ALSは、ロイシンなどの分岐鎖アミノ酸の生合成経路においてアセト乳酸を合成する植物に必須の酵素です。また、この酵素自体が動物には存在しないため、この酵素を標的とした農薬は安全性の高い農薬となりえます。
実際、1970年代からスルホニルウレア系除草剤をはじめとするALSを標的とした除草剤は40種以上開発されており、除草剤の中では大部分を占めています。
一方、これら既存薬に対する抵抗性雑草の出現が深刻となっており、その原因はALSを構成するアミノ酸残基の点変異とされています。そのため、抵抗性雑草対策剤として、変異型ALSに効果のある新規化合物が望まれています。