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タンパク質構造解析が活躍する
産業領域
Biology by 3D Design
タンパク質の機能制御(活性向上や機能阻害)は、医薬・農業(農薬)・食品産業・製造業(酵素的物質生産)などにおいて多様な貢献をしています。タンパク質は、DNA配列に基づいて数十~数百個のアミノ酸が直鎖状に繋がった物質ですが、この鎖が折りたたまれて三次元の立体構造を形成します。タンパク質構造解析によって三次元立体構造が判ると、タンパク質に結合することで活性や相互作用を制御する物質(低分子化合物、中分子のペプチド/核酸、高分子の抗体など)の設計や、タンパク質自身のアミノ酸配列を変異させることによる機能改変が可能になります。
医薬品開発に
製薬業界:低分子創薬
タンパク質立体構造の代表的な活用例が、医薬における分子標的薬(低分子化合物)の探索や設計です。タンパク質立体構造情報を活用した薬剤の探索や設計は、構造ベース創薬(Structure-Based Drug Design:SBDD)と呼ばれています。
SBDDは、新規化合物の探索と、化合物の最適化で力を発揮する手法です。新規化合物の探索では、まず標的タンパク質の構造解析を行い、そのデータを用いて化合物データライブラリ(市販化合物ライブラリ、各社の社内ライブラリなど)に対し、ドッキング・シミュレーションなどのin silicoスクリーニングを行います。化合物の最適化の段階では、in silicoスクリーニングでヒットした化合物と標的タンパク質の複合体の構造解析を行い、その構造情報をもとに化合物の改良を行います。このとき、合成する前に計算機シミュレーションにより活性の有無がある程度予測できるため、無駄な合成を削減できる利点があります。
タンパク質ではありませんが、近年は核酸を標的とした低分子薬の創薬も盛んに行われております。この場合にも核酸-低分子化合物複合体の結晶構造解析が利用されています。
製薬業界:新規モダリティ・酵素
医薬研究におけるSBDDは、低分子化合物だけではなく、中分子(ペプチド・核酸など)、高分子(抗体など)などの新規モダリティにおけるアフィニティー向上に役立てられています。また、酵素製剤においては、構造ベースでの酵素の活性改良なども行われています。
農業・食品産業でも
農薬業界:低分子創薬 (構造ベース創農薬 SBDD)
SBDDは、7兆円産業である農薬にも適用可能です。当社は農薬SBDDに最も積極的に取り組んでいる会社の一つですが、農薬には医薬とは異なった難しさがあります。医薬ではヒトという1種の生物に対して作用すればよいですが、農薬は農地の多種多様な防除対象生物に効く必要があります。生物種が違えば、標的タンパク質の構造も異なるため、多数のホモログタンパク質の構造をもとに化合物設計を行う必要があり、構造解析力が試される分野です。
工業用酵素市場(食品用、洗剤用など)
工業用酵素市場は、7千億円の市場規模があり、成長産業です。工業用酵素の中には遺伝子組換え酵素もあり(国内登録数59種類、令和3年度 厚生労働省)、洗剤や食品の加工などに活用されています。酵素の立体構造が分かれば、その情報をもとに効率的な機能の改良が可能です。